私たちの毎日の暮らしの中で、酷使し続けている代表的な器官が「目」です。年齢と共に視力は低下していきますが、加齢だけが原因ではない病気もあります。
目が開けにく、光がいつも以上に眩しく感じる、など、目に異変を感じたら放置するのは厳禁です。また、このような症状が出た場合に眼科だけを受診するのも危険です。
ちょっとした違和感から始まった目の異変が、やがて顔貌を崩してしまう程悪化する眼瞼痙攣という病気の可能性があるからです。
眼瞼痙攣は適切な治療を受ければ改善されるにも関わらず、誤診されやすく、苦しみ続ける患者が増えています。
今回はなぜ眼瞼痙攣が見落とされやすいのか、また厳密にはどのような症状で、何科を受診すればよいのかを詳しく説明します。
顔貌が崩れるまで悪化すると、対人面や精神面にまで影響が出て、うつ病に陥るケースが多く報告されている疾患です。そうなる前に適切な治療を受けましょう。
目が開けられない、光が眩しい原因は?
目の不調の中で、目が開けにくくなったり、日常生活に支障をきたすほど光が眩しく感じる場合は、下記のような原因が考えられます。
加齢のせい…と放置せず、下記の疾患を疑ってみてください。
白内障
瞳の構造の中で、レンズの役割を果たす「水晶体」が白く濁る疾患です。通常、光を通すために透明な状態の水晶体が濁ると、目に入った光が乱反射を起こして通常よりも眩しく感じます。
白内障は遺伝や加齢、事故の後遺症など、様々な原因で発症しますが、手術で改善することがほとんどです。
目が開けにくくなるという症状は稀ですが、光が眩しく感じるようになったら白内障の可能性があります。
ドライアイ
涙の分泌が不十分で、瞳の表面が充分に潤っていない状態が続くとドライアイと診断されます。
常に瞳が乾燥しているので、埃やコンタクトレンズのちょっとした負担で傷つき、痛みや違和感を起こしやすくなります。
パソコンやスマホによる目の酷使や、瞬きの回数が減ることが発症の可能性を高め、オフィスワーカーの1/3はドライアイとも言われています。
通常、涙で潤った目の表面はツルツルとしていますが、乾燥していると角膜の凹凸が剥き出しの状態となります。そこへ光が入ると、白内障と同じく乱反射を起こして、通常より眩しく感じます。
また、目やにの量が増えて、目が開けにくく感じることがあります。
眼精疲労
ドライアと同じく、目の酷使によって目の周りの筋肉が硬直して、痛みや疲労を感じる状態を眼精疲労と言います。
疲労と聞くと「目を休めれば回復する」と認識しがちですが、通常の睡眠や休養では回復できない程の状態を指します。
悪化すると、肩こり、頭痛、吐き気を感じるようになり、日常生活に支障をきたします。ライフスタイルの見直しに加えて、眼科で点眼薬などの適切な治療を受けて改善させます。
自律神経失調症
呼吸や消化活動など、人間が無意識のうちに行っている各器官の働きを司っているのが自立神経です。
精神的、身体的なストレスによって自律神経の働きが乱れると、原因不明の身体の不調が続きます。このような状態を自立神経失調症と言います。
不眠や動悸、身体の火照りなどが代表的な症状ですが、目の神経にも影響を与えて目が開けにくい、光が眩しいと感じるケースもあります。
眼瞼痙攣
原因不明の疾患で、瞼の開閉を行うシステムが壊れてしまっている症状と例えられています。「痙攣」とつくので、瞼がピクピクと痙攣する症状を想像しがちですが、実際には少し異なります。
痙攣以上に顕著に表れるのが、瞼が開きにくくなり、自分の意志とは関係なく閉じてしまったり、光が眩しく感じたりすることです。
疑われる原因は服用している薬剤や、精神的な問題ですが、特定の原因が分からないまま長年苦しむ患者さんも多いです。
ドライアイと誤診されるケースが多く、適切な治療が受けれらないことも問題となっています。
眼瞼痙攣とドライアイの違いは?
眼科医でも診断がつなかいほど、よく似た自覚症状が表れる眼瞼痙攣とドライアイ。誤診されたまま治療を続けることで、改善しないどころか悪化の一途を辿るケースも少なくありません。
眼瞼痙攣とドライアイの違いを自分自身で把握しておけば、誤った治療を受け続けることを回避できるかも知れません。
眼瞼痙攣は目の病気ではなく神経の病気
眼瞼痙攣とドライアイの決定的な違いは、ドライアイが目の病気であることに対して、眼瞼痙攣は神経の病気であることです。
脳から「瞼を開閉せよ」という指示が出ても、それが神経を通って正しく目に伝わらない病気なのです。
自覚症状として、目が乾く、光が眩しいなど、ドライアイとよく似た症状が表れるため、問診した眼科医はドライアイと診断してしまうのです。
ドライアイの治療を続けても回復の兆しがない場合には、神経眼科や脳神経科を受診することをおすすめします。
眼瞼痙攣は日常生活に支障をきたす
ドライアイの場合は、目に不快感はあっても日常生活に支障をきたすほど悪化することはほとんどありません。それに対して、眼瞼痙攣の場合は下記のような状態に陥ることがあります。
- 歩行中に人や物にぶつかる(または、ぶつかりそうになる)
- 自転車や自動車の運転が困難
- 自力で瞼を開けられない(指を使わないと開かない)
- 気分が落ち込み、何も手につかない
眼瞼痙攣は顔貌が変わる
ドライアイは悪化しても顔の表情が大きく変わることはありませんが、眼瞼痙攣は悪化すると顔つきが変化します。変化として起こりやすいのは下記の通り。
- 常に瞼が硬く閉じ、眉間に深い皺が寄っている
- 目の周囲に不自然な小じわが増える
- 眉毛の位置が下がる
また、症状の不快感から精神的に落ち込み、表情自体が暗く変化してしまうことも多いです。
眼瞼痙攣は自然治癒で治らない?
残念ながら、眼瞼痙攣は自然治癒したという報告はありません。
稀に、原因となっている薬剤の服用を止めたタイミングで改善することはありますが、放っておいて自然に治ることはないと考えてよい疾患です。
加齢のせいだろう…と放置しておくと、日常生活に支障をきたし顔貌が変わるほど悪化することがほとんどです。
その不快な症状が引き金となって、うつ病などの精神疾患を併発する例も少なくありません。
少しでも眼瞼痙攣の疑いがある場合は、神経眼科を受診することをおすすめします。
眼瞼痙攣は治療すれば完治するの?
ドライアイと誤診されず、病院で適切な治療を受けても完治はしない疾患と言われています。原因を特定することが難しく、特効薬もないので、根治的な治療ができない疾患です。
しかし、症状の悪化を防ぎ、改善させるための対症療法は様々あり、気にならない程度にまで回復するケースもあります。主な治療は下記の通り。
服用している薬剤が原因の場合は服用を中止する
眼瞼痙攣の原因の一つとして挙げられているのが、向精神薬や睡眠導入剤の副作用です。これらの薬剤の服用をストップするだけで、症状が劇的に改善するケースもあります。
ただし、精神的疾患に対して処方されている薬剤が多いので、心療内科や精神科との連携が必要です。
薬剤の処方
原因薬剤の服用中止と相反しますが、眼瞼痙攣が精神的な問題が原因の場合、抑うつ剤や安定剤の処方で症状が改善されるケースがあります。
ただし、副作用で症状が悪化することもありますので、医師に効果を報告しながら慎重に治療を進めます。
医療用眼鏡
症状が軽症の場合、医療用眼鏡で日常生活の不便を解消しながら、経過観察をすることもあります。
光を遮断する遮光眼鏡や、瞼を持ち上げる器具がついたクラッチ眼鏡など、種類もいくつかあります。
医療用眼鏡で対処できないほど悪化した場合は、別の治療へと移っていきます。
ボトックス注射
近年、最も効果があるとされる治療が A 型ボツリヌス毒素の患部への注射です。
眼瞼痙攣は目の周りの筋肉の極度の収縮が様々な症状を引き起こしているため、ボツリヌス毒素の作用によって筋肉の動きを抑制します。
効果は1回の治療で3~4ヶ月で、継続的な注射が必要となりますが、現在のところ長期投与で抗体ができて効果が薄れるという報告はないようです。
ただし、妊婦や授乳中の女性への安全は確立されていません。また、ごく稀にですが、呼吸障害などの副作用が出ることがあります。
手術
他の治療で改善が見られない場合の最終手段として、手術が行われることもあります。
ちょっとした刺激で過剰に反応して収縮を起こす筋肉を一部切除して、収縮反応を緩和する手術です。
瞼を閉じる働きをする眼輪筋(がんりんきん)や、眉毛下制筋(びもうかせいきん)を減量します。
手術の中では安全性が高く、一定の良好な結果を出しています。後遺症の報告もほとんどありません。
目の周りの筋肉に「動け」という指令を伝える神経を切断する手術です。
筋肉の減量手術に比べると再発の可能性が高く、顔の他の部位が麻痺してしまうという後遺症の報告も多数あります。余程のことがない限り、施術されない手術です。
まとめ
まだまだ認知度の低い眼瞼痙攣。眼科医でさえ誤診する疾患を自分で正しく判断することは難しいかも知れませんが、自分の身体のことは自分が一番よく分かります。
治療を進めても改善しない場合や、今回説明した症状が当てはまる場合は、眼瞼痙攣を疑って神経眼科を受診してみてください。
眼瞼痙攣は不快なだけでなく、顔つきまで変えてしまうので、女性にとっては更に辛い疾患です。
適切な治療を受ければ改善する疾患なので、加齢だから…と見過ごさないようにしましょう。