血糖値をコントロールする方法の一つとして「運動」があげられます。
しかしなぜ運動が血糖値にいいのか、また、具体的にどういった運動をすればいいのかわからない、という方も多いかと思います。
そこで今回は、「血糖値」と「運動」の関係性について、ご紹介していきます。
血糖値と運動の関係は?
血糖値を下げる方法の一つとして奨励されているのが、運動です。血糖値を下げるために有効な運動についてご紹介する前に、まず、血糖値と運動の仕組みについてご紹介していきましょう。
血糖値を下げる2つの効果
運動を行うことで血糖値を下げる二つの効果が期待できます。それが、「急性効果」と「慢性効果」と呼ばれるものです。
[surfing_su_note_ex note_color=”#ffffff”]運動によって多くのエネルギーを消費する結果、エネルギー源である血糖値を下げる働きを、「急性効果」といいます。運動を行う時間を調節することで、急性効果によって血糖の上昇を抑制する働きが期待できます。
運動を継続して行うことによって、体が血液からより効率よく糖を取り込めるようになる効果を「慢性効果」といいます。運動を日常生活の中に取り込み、継続して行うことで、血糖値のベースそのものを下げる効果が期待できます。
[/surfing_su_note_ex]運動はすればするだけ血糖値が下がるとは限らない
運動について患者さんへ指導する中で、よく「運動はすればするだけ血糖値が下がる」と考える方がいるのですが、この考え方は非常に危険です。血糖値が高めで経過している方は、それだけ血糖値をコントロールする力が弱くなっていることも意味しています。
運動によって血糖値が正常値ほどになった時点で体がコントロールできればよいのですが、過度に運動を行ってしまうと、かえって血糖値が下がりすぎてしまい、低血糖になってしまう可能性があります。
そのため、良好な血糖コントロールを行うためにも、運動は量を重視するのではなく、質を重視することをお勧めします。
「毎日必ず」ではなく「週3回確実に」を目指す
「血糖値を下げるためには、運動を毎日しないといけない」と思われている方もいらっしゃいます。しかしこれも、血糖値だけのことを考えるとお勧めできません。
普段の生活に毎日運動の時間を組み込むことは大変なことです。はじめの数日はまだ大丈夫かもしれませんが、日にちが立つにつれて苦痛になり、徐々に運動をしなくなってしまう可能性もあります。
特に運動による「慢性効果」は、持続した運動習慣によって得ることができる効果です。したがって、「無理に毎日」よりは「週3回確実に行う」ようにしたほうが、より血糖値を下げる効果が期待できます。
[surfing_su_box_ex title=”以前担当した方のケース” box_color=”#154dcd”]糖尿病についてとても熱心に取り組まれており、糖尿病を発症後は毎日ジョギングを行うことが日課になった方がいました。その方はどんどんジョギングにはまっていき、血糖値もお薬の力を借りる必要がないほどまで改善しました。
しかし改善したことを知った途端、「もういいだろう」とその方はジョギングを辞めてしまい、以前の生活に逆戻りしてしまいました。
それから3か月後。検診によって再び血糖値を測ってみたところ、むしろ糖尿病発症時よりも血糖値は上がってしまっていました。
[/surfing_su_box_ex]運動はあくまで一時的な効果でしかありません。集中的に行うのではなく、ぜひ日常生活の中で上手に運動を取り入れるようにして頂けたらと思います。
血糖値を下げるのにおすすめの運動は?
血糖値を下げるためには、日常生活で負担に思わない程度の運動を行うことが大切です。気軽に始められて、なおかつ血糖を下げる効果が期待できる運動方法について、ご紹介していきましょう。
病院でお勧めしている運動はこの二つ!
糖尿病と診断された方に対し、医療機関で指導する運動には二種類あります。それが「有酸素運動」と「レジスタンス運動」です。
[surfing_su_note_ex note_color=”#ffffff”]有酸素運動とは文字通り酸素を使う運動のことを指します。代表的なものではウォーキングや軽いジョギング、水泳などがあげられます。
レジスタンス運動とは、主に筋力トレーニングのことを指しています。代表的なものでは、室内でもできるスクワットやダンベル運動などがあげられます。
[/surfing_su_note_ex]この二つの運動を上手に組み込むことで、血糖値を下げる効果が期待できます。
体内のエネルギー消費量をUPする方法
有酸素運動は、エネルギー量をより多く消費するということで、納得できます。しかし、ここで疑問なのが「なぜ筋力トレーニングで血糖値が下がるのか」という点でしょう。
人間は、大小さまざまな筋肉によって成り立っています。そして、筋肉を動かすためには一定のエネルギーが必要となります。筋力トレーニングを行って筋力を強化すれば、それだけ動かすためのエネルギー量は増加します。
同じ運動を行っても、より多くのエネルギー量を消費できることになるため、糖尿病治療において筋力トレーニングであるレジスタンス運動も、奨励されています。
室内でも簡単にできる「踏み台運動」
数ある運動の中でも、血糖値を下げる運動としてぜひおすすめしたいのが「踏み台運動」です。
運動方法は、とても簡単。ご家庭にある台を、「背筋を伸ばした状態」で、「先にのぼった足から、足を下す」ことを心がけて行います。バランス感覚に自身がない方でも、壁に手を置くことによって安全に行うことができます。
また、さらに負荷をかけたい方は、段差を大きくしたり、ペットボトルや軽いダンベルなどを持つことによって行うことができます。
この運動を行うことで、負荷をかけることでの有酸素運動による効果ともに、下肢の筋力トレーニングという効果も期待できます。ぜひ今日からでも、試してみてください。
なるべく避けた方がよい運動
血糖値を下げるために、マラソンや長時間のバイク走行など、運動量を大幅に増やす方がいらっしゃいます。しかしこれは、糖尿病治療の観点からはお勧めできません。
マラソンなどの長距離、およびカロリー消化の激しいスポーツを行うことで、身体は「エネルギーをもっと出さないと」と頑張ってしまいます。その結果、血糖値は下がるどころかむしろ上がってしまいます。
血糖値を意識した運動の場合には、運動の量を基準にするのではなく、質を考えて行うようにしましょう。
血糖値を下げる目的で運動を行うタイミングは?
運動によって様々な血糖を下げる効果が期待できます。一方で運動を行う時間に注意しないと、体調を崩してしまう恐れもあります。特に注意したい運動を行うべき時間について、ご紹介していきます。
食前と食後、より血糖値を下げるのは「食後」
運動は、食前と食後、どちらで行うとより血糖値を下げるでしょうか?
その答えは「食後」です。むしろ、「食前」には運動を控えていただきたい、というのが本音です。
食事をした後、血糖が上がり始めるのはおおよそ30分後とされています。そのため、食後30分後から運動を行うと、効率よく血糖の上昇を抑えることができます。
朝食前に運動を行うのはNG
運動を習慣化するにあたり多いのが、「朝食前に運動をする」場合です。寝起きの早朝にウォーキングなどの運動を行うことはとても気持ち良いものです。しかし、血糖値のことを考えるとお勧めはできません。
なぜなら、寝起きは空腹であることが多く、ここでさらに運動をしてしまうと空腹が助長され、朝食時により多く食事をとってしまいます。たくさんの食事によって血糖値がさらに上がりやすくなってしまい、血糖を下げるどころかむしろ上げてしまうという心配があるからです。
そのため、朝食前に運動を行うことは、お勧めできないどころか、できるだけ回避していただきたいこととなります。
運動は20分以上継続して行う
運動をするにあたり、「どれくらいの時間をかければ血糖を下げる効果があるか」も気になります。
運動には先ほどもご紹介した通り「急性効果」と「慢性効果」がある他に、運動も種類によってそれぞれ体にかかる負荷も違います。そのため一概にはいいきれませんが、運動効果を期待できるのは、運動を20分以上持続して行うことが望ましいとされています。
軽いお散歩や草むしり、掃除や階段の上り下りなど、自宅で簡単にできるものでも、20分以上続けて行うことで、運動効果が十分期待できます。ストップウォッチなどで「20分」を計測し、持続して運動する習慣をつけるとよいでしょう。
運動を行う際に役立つアプリ
様々な便利な機能がついている、スマートフォンの「アプリ」。特に糖尿病の方へお勧めの運動系アプリを2つ、ご紹介します。
[surfing_su_note_ex note_color=”#ffffff”]糖尿病の運動は、継続することが何よりも大切です。「でも、一人で続けるのは大変」と思っていらっしゃる方におすすめなのが、このアプリです。
ダイエットや勉強など、様々なテーマの中から、見ず知らずの5人で一つのチームを作り、それぞれが励ましあいながら目標達成を目指すことができます。すべて無料で使うことができるので、お財布にも優しいアプリです。
糖尿病の方に奨励されている「ウォーキング」。ウォーキング中のお供になるのが、このアプリです。
歩いた分だけアプリの中の猫も歩き、消費カロリーや歩いた距離を自動で計算してくれます。特に猫好きの方にお勧めです!
[/surfing_su_note_ex]運動をやっても血糖値が下がらないのはなぜ?
ここまで、運動と血糖値の関係についてご紹介してきましたが、実はいくら運動をしていてもなかなか血糖値を下げるに至らないこともあります。なぜ、こういったことが起こるのでしょうか?
継続して行っていない
血糖値と運動の関係について、ある研究結果がでています。それは、「軽い運動であっても、長期間続けることにより、有意に慢性効果が期待できる」ということです。
具体的には、運動の効果は運動後3日以内に低下し始め、1週間経過すると消失するというデータがあります。逆をいえば、「3日以内に運動を行うよう継続すれば、運動の慢性効果は十分期待できるということです。
そのため、土日にまとめて運動習慣をつけるよりも、週に3回軽い運動を行うようにするほうが、結果として血糖値をより下げる効果が期待できます。
いきなりスポーツジムへ通い始める
運動と聞くと、頭に浮かぶのが「スポーツジム」です。確かにスポーツジムではより本格的な運動をすることが可能ですし、専門的な器具もそろっているので、筋力トレーニングも行いやすくなります。
しかし、血糖値を下げる上でのポイントは「本格的な運動をするか」ではなく、「いかに長期間継続的にできるか」という点です。
いきなりスポーツジムに行ってしまうと、「こんな本格的なものはできない」となってしまい、途中から通わなくなってしまうケースが多くみられます。その結果、継続した運動が行えずに効果が見られなくなってしまう可能性が高くなります。
血糖値を下げる効果を期待する運動は、専門的な器具がなくても自宅で行えるものがたくさんあります。そのため、病院ではいきなりジムを勧めずに、まずは簡単に行える運動をお勧めしています。
水分摂取としてスポーツドリンクを飲んでいる
運動をする際、注意したいのが水分摂取です。特に夏場など暑い時期は、適度に水分摂取を行わなければ脱水や熱中症の危険があります。
しかし水分摂取としてスポーツドリンクを飲むのは、よくありません。スポーツドリンクには、疲労回復目的で大量の砂糖が含まれています。
せっかく運動によって血糖値を下げようとしているのに、スポーツドリンクを飲むことによってむしろ血糖値が上がってしまうという事態になりかねません。そのため、運動時の水分摂取には、スポーツドリンク以外のもので行うようにしましょう。
医師の指示通りに運動を行っていない
血糖値を下げるための運動を、控えなくてはいけない方もいらっしゃいます。それは、「運動によって体調や痛みが悪化してしまう恐れがある方々」です。
血糖が超高値であり、運動によってさらに体へ負担をかけてしまう可能性がある方、膝や腰などの関節に痛みがある方、心臓や腎臓に疾患を持っている方など、運動によってさらに体調または痛みが悪化してしまう恐れがある方は、個別に各症状や痛みを悪化させないような運動を行う必要があります。
糖尿病と診断された方は、メディカルチェックによって合併症が起こっていないかどうかを確認した上で、運動療法を行うことが奨励されています。そのため、糖尿病と診断された場合は医師へ運動をしていいかどうか、どれくらい運動をすればよいか相談し、指示に従って運動を行うようにしましょう。
まとめ
運動を日常生活の中に取り入れることは、簡単なようでかなり難しいことです。そのため「いかに気軽に行える運動ができるか」がポイントとなります。
今回ご紹介したポイントを押さえて、ぜひ継続した運動を心がけてみてくださいね。