新聞や雑誌、テレビなどでもよく聞くようになった「血糖値」という言葉。漢字から「血の糖の値」というのはわかりますが、血を実際になめてみても甘味は全く感じませんし、血液はさらさらしています。
いったい、「血糖値」は、どういったものなのでしょうか?今回は「血糖値とは何か」ということについて、ご紹介していきます。
血糖値とは何?
糖尿病かどうか診断する上で、血糖値は欠かすことができません。そこで、まず血糖値は何を意味しているのか、そして血糖値と並んで診察時に重要となる「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」について、解説していきます。
血液に含まれる糖分は「微量」
血糖値は、血液の中に含まれている糖分の値をいい、単位は「mg/dl」で表記されます。「mg/dl」という単位は、「1dl(デシリットル)あたりに何mg含まれているか」を表しています。1mgは1gの1000分の1g、1dlは100mlと同量です。
糖尿病と診断される項目の一つとして、「血糖値が随時200mg/dl以上」があります。血糖値が200mg/dlということは、血液100mlあたり糖分が0.2g含まれているということになります。
このように糖尿病と診断される血液中の糖分量を見ると、いかに血液に含まれる糖が微量であるかが、お分かりいただけるかと思います。
「血液をなめてみて甘かったら糖尿病だよ」なんていう俗説がありますが、実際にはごく微量の糖分しか含まれていないため、いくら糖尿病でも血液をなめて甘味を感じるということはありません。
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)とは
糖尿病の検査をする上で、血糖値と同様に注目されるのが「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー・以下HbA1cと表記)」という数値です。
そもそも、Hb(ヘモグロビン)とは、酸素と結合し全身に酸素を届ける役割があります。しかし、酸素よりも簡単にHbと結合できるものがあります。それが糖です。
糖が通常よりも高い数値のまま維持されてしまうと、余った糖分はHbと結合します。これがHbA1cという物質になるのです。
Hbが糖と結合し、血液内で「HbA1c」として安定するまで、おおよそ1か月ほどかかります。そのため、HbA1cの値は「過去1か月の血糖値を推移」を判定する上で、重要となります。
[surfing_su_box_ex title=”~臨床現場にて実際にいらっしゃった糖尿病患者さん~” box_color=”#0a6b8e”]Aさんは、甘い物がとにかく大好き。糖尿病なので、私たち看護師から「甘い物は控えてくださいね」と指導を受けていました。しかし、「今日は長い時間お散歩したから」など、毎日言い訳をしながら、甘い物は止められずにいました。
糖尿病外来受診の前日。Aさんは「明日、血糖値の検査があるから」と、甘い物を食べずにいました。また、朝も何も食べないことで、「一時的に血糖値を下げよう」としていたのです。
血液検査の結果、確かに血糖値は正常範囲内の値でした。しかし、前回の検診結果よりも、HbA1cは上昇しており、私たち医療従事者はすぐに「普段は甘い物を食べていたな」ということがばれてしまいました。
それ以降、Aさんは甘い物は少量を週3回まで、と決めて食べるようになり、血糖値およびHbA1cも少しずつ改善していきました。
[/surfing_su_box_ex]血糖値の正常値の範囲は?
血糖値は、本来非常に狭い範囲で常にコントロ―ルされています。では、どれくらい範囲を逸脱すると、糖尿病と診断されるのでしょうか?
血糖値の正常値や、「糖尿病」と診断される基準について、解説していきましょう。
血糖値の正常値
血糖は低すぎれば全身のエネルギー不足となってしまう恐れがある一方で、高すぎれば全身の血管を傷つけ、血液の流れを悪くする可能性があります。
そのため、空腹時(前回の食事より10時間以上空いている状態)の血糖値が100mg/dl以下、食後2時間後の血糖値が140mg/dl以下であれば正常値と診断されます。
「血糖値が高め」とは?
血糖値は空腹時100mg/dl以下であれば「正常値」と診断されますが、血糖値が101mg/dl以上であれば、すぐに糖尿病と診断されるわけではありません。空腹時において血糖値が100~110mg/dlであれば、「正常高値」となり、いわゆる「血糖値が高めである」と診断されます。
この値であれば、糖尿病と診断されることはありませんが、「糖尿病に今後なる恐れがある」として、経過観察が必要となります。
「境界型」とは?
空腹時の血糖値が110~126mg/dl内、および食後2時間血糖値が140~200mg/dl内であると、「境界型」と診断されます。
境界型とは、「現在はまだ糖尿病とすぐに診断はできないが、今後糖尿病に移行する可能性が極めて高い状態」とされています。
空腹時においても血糖が110mg/dl以上あるということは、すでに身体の血糖値をコントロールする機能が弱くなってしまっていることを意味しています。そのため、定期的に検査を行い、糖尿病に移行していないかどうか観察していくことが重要となります。
妊娠中の血糖値はさらに厳しい
妊娠中の女性の場合、血糖値の基準値はさらに厳しくなります。妊娠中は、赤ちゃんにも栄養や酸素を送る必要があります。
しかし血糖値が高いと、赤ちゃんが栄養過多となってしまい、巨大児になる、生まれる際に血糖のコントロールが悪くなってしまうなど、様々なリスクがあります。
そのため、妊娠中においては空腹時の血糖値が92mg/dl以上である場合、妊娠糖尿病と診断される可能性が高くなります。
血糖値が高い原因や現れやすい症状、病気との関連性について、下記のページで詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
→ 血糖値が高い原因は?現れやすい症状は?続くとどうなるの?
HbA1cの正常値と異常値
HbA1cでは、6.5%以上であれば「高値」として、糖尿病と診断される材料の一つとなります。
日本糖尿病学会による明確な表記はありませんが、医療現場においておおよそHbA1cが6.0%以上となると、「今後糖尿病に移行する可能性がある」として、注意して観察します。
合併症を予防する「熊本宣言」
糖尿病のクリニックや外来において、熊本県のゆるキャラ「くまもん」とともに大きく「7%」と明記されているポスターをご覧になった方もいらっしゃるでしょう。これは、2013年に日本糖尿病学会が宣言した、通称「熊本宣言」と呼ばれるものです。
糖尿病の場合、血糖値をコントロールし、合併症を発症、悪化させないよう、日々食事や運動などに気を付ける必要があります。
その目安として、近年の研究において、HbA1cを7%以下にコントロールできれば、合併症発症を予防できることがわかってきました。そのため、糖尿病にかかったらまずはHbA1cを7%以下にすることを目標にします。
血糖値は正常でも尿糖で陽性が出たら糖尿病?
以前、血糖値と並んで測定されていたのが「尿糖」です。しかし2016年現在、糖尿病の診断において「尿糖」は使用されていません。
なぜ、尿糖は使用されなくなってしまったのでしょうか?尿糖はなぜ出るのか?そして尿糖と糖尿病の関係について、解説していきましょう。
尿糖とは
本来、尿に糖分は排泄されません。これは、腎臓が血液から尿をつくる過程において、糖分は再吸収されるためです。
しかし、腎臓が再吸収できる糖分の量以上に血液に糖分が含まれていた場合、腎臓は糖分を再吸収しきれずに、尿の中に糖分が残ってしまいます。これが、尿糖となります。
糖尿病と尿糖の関係
糖尿病になると、血液の中の糖分をコントロールできなくなり、血糖値が高い状態が続きます。身体は少しでも血液中の糖分を減らすため、再吸収できないほどの過剰な糖分を尿内に排泄します。
本来、尿に糖分は排泄されないので、尿糖が出ている場合、血液の中に糖分が過剰にある可能性が高く、糖尿病である可能性が極めて高くなります。
尿糖が出ても、糖尿病とは限らない
尿糖が糖尿病診断に使われなくなった理由は、「血糖値は正常値であったとしても、尿糖が出る可能性がある」からです。それは、「腎臓機能が低下しているとき」です。
腎臓そのものの機能が低下してしまい、「糖分の再吸収」が行えなくなってしまった場合でも、尿糖は排泄されてしまいます。そのため2016年現在、糖尿病の診断において尿糖は使用されなくなっています。
まとめ
糖尿病において、血糖値とHbA1cは極めて重要な数値です。糖尿病と診断されなくても、境界型や正常高値であった場合、今後糖尿病に移行する可能性が極めて高く、経過観察が必須となります。
「まだ糖尿病と診断されていないから」と放置するのではなく、ぜひ「診断される前から」日ごろの食生活や運動を見直していただき、糖尿病発症を予防していただけたらと思います。